偶発性から生まれるものを大切にしたい ― イラストレーター・中島あかねさん

ふわふわ。しゅわしゅわ。
耳を澄ますと、そんな音が聴こえてきそうな作品が「米と花」のラインナップを彩っています。本シリーズを支えるもう一人の若手クリエイターは、柔らかな佇まいが印象的な絵描き・イラストレーターの中島あかねさん。淡い色調とゆるやかなフォルムに見出すなめらかな質感や澄んだ空気感は、独特でありながらも、どこか懐かしさを覚えます。
「ぼーっとしている時間が長いんです」とはにかむ中島さんの作品づくりを覗かせてもらいました。

形のない味や香りが、ゆっくりと輪郭を帯びていく

――中島さんの作品づくりのアプローチを教えてください。

最初は絵具を使わずに、えんぴつでドローイングしていたのですが、もうちょっと質感を出してみたいな、おもむきのあることがしたいな、と思って絵具を使い始めました。今は水彩画をメインに描いています。

「米と花」シリーズのために、中島さんが描き下ろしてくれた作品たち(原画)。シンメトリックであるようで不均一、アンバランスなようで調和がとれていて、心地よく惹き込まれていく。

具体的な「なにか」を思い浮かべたりせず、何も考えずに描き進めていくことが多いんです。「うまくいきそう」という感覚を持てるときもあれば、雑念が邪魔をして「無理やり形にしているな」と気持ちが乗ってこないときもあります。そんなことも含めて、偶発的なことをとてもおもしろく感じています。

だから「普段と同じようなものを描いてください」という依頼を受けると、“同じ”ようにならないこともあって、困ったなぁ……ということも起きちゃうんですよね(笑)。

少しずつですが、あいまいなままの作風の持ち味を共有しながら、イメージを決めこまずに「中島さんの思う形でやってください」と言ってもらえることが増えたような気がします。

――今回の作品をみていると、どんな味わいなんだろう?よい香りが漂ってきそう!と想像力を掻き立てられます。味噌や甘酒といった発酵食品のデザインと聞いたときの印象はいかがでしたか?

食べることはとても好きなので、楽しそうだなと思いました。絵が乾くまでの間におやつをつまむこともありますし、疲れたときに甘酒でほっと一息つくときもあります。今回は、この甘酒を飲んだ時の感覚を作品に投影できたらなぁと考えていました。

自分が描いた“平”なものではなく、商品づくりに関わるいろんな人たちの眼を通って“立体”になっていくことは、いつも嬉しい気持ちでいます。自分一人では、実現し得ないアウトプットなので。

形が定まらないことに向き合ってる分、外から意見をもらえると、ごちゃごちゃしているモノゴトが整理されて、輪郭がはっきりすることもあるんです。

それに、誰かと一緒に作っているからこそ初めて試してみることも出てきます。具体的な例をあげると、いつもの感覚では「ここは丸く描かない」と感じる部分でも、感覚とは別の理由で丸く描くとか。些細なことなんですが、実際にやってみると「こういうのもあったんだ」と小さな発見があります。人と関わることで変化していく作風もまた、偶発性、偶然性の一部ではないかな。

「“しずく”のようなもの」を描き始める中島さん。何を描くかを定めず、乾くのを待たず、最初からにじませて描いていく。

糀屋のものづくり 中島さんの作品づくり

――450年という長い歴史を持つ糀屋ですが、こう在らねばならないという線引きをしない自由さ、時の流れとともに変わり続けてきた柔軟性があります。中島さんの作品の世界観と重なるように感じますが、いかがですか?

優柔不断というのでしょうか?「はっきりさせない」という自分の性格が出ているかもしれません。作品を描いていて、「今の考え方だと先に進まない」と手が止まるときがあります。でも、自分が変わったら、この続きが描けるかもしれない。間違えちゃったかな?と思った部分も、それを利用して新しい絵にできたらいいなとも感じます。失敗を肯定的に捉えるというか……すべて抽象的な判断で、“自分次第”が基準になっていますね(笑)。

――新商品のパッケージデザインはどのようなプロセスで作られたのですか?

甘酒は、試飲してみてもったりしすぎていない味わいからイメージしていきました。プレーンにはさわやかな感じがいいな、と水色を入れています。食べ物の色に寄せつつ、少しだけずらしているんですね。

たとえば実際のカカオ(ハスク)はもっとダークな色合いですが、お客さんはきっと明るい色の方に惹かれていくのではないかな?と思いました。ずらしていることが違和感として目に留まるのではないかな、とも。

「パッケージになって店頭に並んだときにお客さんの目を引くのはどんな感じか?」というところから逆算して考えていくという機能面でのアドバイスをもらえたことも、プラスに働きました。

また形が複雑すぎないほうがよいかな、とも考えました。これは水たまりなのかな?と“なにか”を想起できたり、キャラクターのように直感的に”かわいい!“と感じられたり。これも偶発的で、即興的な要素が活かされているように思います。

みそキットのほうは、いろいろ描いてみた作品群の中から、今回の梱包に寄り添うものを選んでもらっています。これまでの糀屋さんがつくられてきた商品パッケージとはだいぶ違う印象のデザインになっているのではないでしょうか。

――ひとつの絵に対するゴールはどうやって決めていますか?

そうですね……これ以上はやらなくていいかな、と思えるところがゴールかもしれないですね。

あと少し手を入れてしまうと、“いい感じ”に積みあがっているものが台無しになってしまうかも、バランスがくずれるかも、と思う一歩手前で、感覚的に止めているような気がします。明確な答えがあるわけではないんです。

――自分なりに答えを見つけていく……まさに味噌づくりと一緒ですね(笑)。

中島あかね

絵描き・イラストレーター
1992年生まれ。クライアントワークと自発的な絵の制作の両面から活動中。2020年にtorch pressから初作品集『float』をリリース。

hhttps://www.akanenakajima.net/
Instagram @nra_np

Photo by Taro Terasawa